禅語

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過橋村酒美 隔岸野花香 『五灯会元』巻一四 はしをすぎてそんしゅびなり きしをへだててやかかんばし

『床の間の禅語 続』

(河野太通著・1998.04 禅文化研究所刊)より

05月を表す季節の画像

「美」は、「美し」 美しうまと読んでもよろしい。橋の向こうで買った酒の旨さ、岸を隔てて見る花のみごとさ。

 いつも自分の手元にあるものは、あまりいいもののようには思わないものです。
向田邦子さんの「となりの芝生」という家庭ドラマがありましたが、隣の芝生のほうがきれいに見える、隣の花のほうがきれいに見える、隣の奥さんのほうがきれいに見えるということが、よくあるものです。自分のところにあるものは、いつも見慣れているものですから珍しくない。たまに旅行などして、「地酒です」といって出されると、旨いように思う。

 わが家にも酒はあるけれども、川向こうで買ってきた酒が旨い。自分のところにも桜の花は咲いているのだけれども、あまり身近すぎてみごとに見えない。それが、川向こうの土手に咲いている桜を見ると、まことにきれいに見える。

 身近にあるつまらないようなものでも、ちょっと距離をおいて見ると美しいものだといいことです。そう思って見るならば、わが家のものも、よその家のものも、それなりの美しさというものがある。そこには彼我の区別というものがない。すべて天然のまま完成されている。