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門前緑樹無啼鳥 庭下蒼苔有落花 『普灯録』巻二十九「酒仙和尚十首」 もんぜんのりょくじゅていちょうなく ていかのそうたいらっかあり

『床の間の禅語 続』

(河野太通著・1998.04 禅文化研究所刊)より

06月を表す季節の画像

門前のよく茂った緑の木に、いつもは鳥たちがやってきてさえずるが、今は一羽の鳥もいない。もちろん声も聞こえません。わが家の庭を見ると、青々とした苔が、地面を一面埋め尽くしている。その青い苔の上に花が落ちた。一輪なのか五輪、六輪か、緑にしきつめた苔の上に、赤い花か白い花か、点々と落ちている。静かな美しい句です。絵としてもきれいな景色です。

 青い苔が一面を覆っているのも美しいものですが、それだけではなく、そこに何輪かの花が落ちていると、さらに美しさが増します。苔の青さもきれいだし、花の白も赤もきれいだ。お互いがお互いを引き立たせている。そして、門前の緑の木には一羽の鳥すらもさえずっていない。まことに静かだ。こうして庭の景色を見ているときに、ポトンと一輪の花が落ちた。そこに花が落ちるという動きがあることによって、さらに静けさが深まります。
 これが、私たちの住んでいる地球上のみごとな景色です。無い為、作為のない大自然のありさまです。誰かがこれを作為して演出したわけではない、まことに美しい。まことに静かな、こういう世界の中に没入して、それと自分とが一体となって楽しんでいる境地です。