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残星数点雁横塞 長笛一声人倚楼 『三体詩』七言律詩 ざんせいすうてんかりさいをよこぎり ちょうてきいっせいひとろうによる

『床の間の禅語 続』

(河野太通著・1998.04 禅文化研究所刊)より

11月を表す季節の画像

これは趙嘏ちょうかの「長安秋夕ちょうあんしゅうせき」という詩の一句。

 残星数点、雁、塞を横ぎり、長笛一声、人、楼に倚る

 夜明け、朝日が出てくると、その光によって小さな星の光は消えてしまい、光の強い星だけが残ります。それが残星です。消え残っている星がいくつか空にあって、その空を雁が砦を横ぎって雁行していく。
高殿には人が登ってあたりの景色を眺望している。多分これは作者自身でしょう。作者が高殿に登って、その景色を見渡しますと、どこからともなく長笛の音色が一声聞こえてくる。長笛は長い笛の一種。長い笛ですから、よほど遠くまで届く音色がするのだろうと思います。その笛の音が一声、あたりを眺めている私の耳に聞こえてきた。
星が残り、雁が飛ぶ空。それを私が眺望していると、どこからともなく笛の音色が聞こえてくる。人と環境とが、おのおのその所を得て、和やかに調和している。自己もそのまま、ありのままに肯定され、自分を取り巻く環境もそのまま肯定され、寂然と調和している世界。これもまた「人境倶不奪」の世界です。