禅語

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凡聖同居龍蛇混雑 ぼんしょうどうきょしりゅうじゃこんざつす

『禅語に学ぶ 生き方。死に方。』

(西村惠信著・2010.07 禅文化研究所刊)より

11月を表す季節の画像

凡夫と聖人が同居している

  
―凡聖同居し、龍蛇混雑す―(『碧巌録』三十五)

 「悟りの世界は清も濁も併せ呑む素晴らしい世界である。そういう世界には、天にも登る龍がいるかと思えば、地面を這い続ける蛇もいる」ということ。冒頭の禅語は、「南方にはどのような仏法があるか」という文殊菩薩の問いに対して、答えた無著禅師のことばである。
 優れた人と困った人が仲良く同居する世界は、まるで龍と蛇が雑居しているようなものであるが、こういう世界こそ素晴らしいのである。言葉を換えると地獄と極楽の両方を一緒にしたような世界である。ちょっと考えると、非常に矛盾した世界に思われ、そんな世界はあり得ないだろうと思ってしまう。
 しかし、そのような世界があるとすれば、なかなか楽しい物になるであろうと思う。私の高校時代を思い出すと、進学組の人たちは昼休みの時間さえ弁当を食べながら、黒板に書かれた問題を解いていたし、就職組の連中はグラウンドに出て、毎日のようにソフトボールに興じていた。それでいて授業が始まるとまた仲良く勉強したものである。
 そこへ行くと私などは、どっちつかずの半端人間で、秀才といわれた連中ともよくつき合い、定期試験にもなると、分からないところは賢い友達から親切に教えてもらった。試験が済むと今度は、愚連隊みたいな奴らと、授業をサボって映画館に行ったり、アイスキャンデー屋で隠れてタバコを吸ったりした。それで友達はバラエティーに富み、お蔭で私の人生は今でも人の倍ほどに膨らんでいる。
 「清濁併せ呑む」ということは難しいことだが、一般社会においてもこれは大事な渡世術だと思う。これができないと、自尊心に酔って人生の幅を狭めてしまうか、いつまででも人を羨むばかりの惨めな人生を送ってしまうからである。